第14回孫福賞(笠原 喜明)

第14回(2025年度)孫福賞受賞者

受賞者:笠原 喜明(東洋大学)

1.表彰日:2025(令和7)年9月6日(土) 2025年度 第29回定期総会・研究集会

2.場 所:追手門学院大学 茨木総持寺キャンパス、オンライン同時配信

3.表彰内容:
孫福賞選考規程程第7条第1項第1号、(研究集会発表 学会誌投稿その他これに準ずる本会内外の特に優れた研究・実践業績) 第2号、(委員会 支部・地区別研究会 テーマ別研究グループ等の成果又は構成会員の特に優れた実績)第3号(大学職員の社会的若しくは国際的評価又は認知度の向上に関わる特に優れた実績)及び第4号(その他 理事会の承認を得て 会長が特に定めた目標に関わる特に優れた実績)に該当し、同規程第2条により孫福賞を授与する。

4.選考理由:
笠原喜明氏は、2001年6月にJUAM入会後、財務研究グループを拠点として活動し、2006 年には、同グループが出版した「大学財務研究」において 2004 年に開設されたばかりの私立法科大学院の学費決定のプロセスと今後の動向等について、当時としては先見性の高い研究成果を発表された。この論考をはじめとして、笠原氏が大学職員として通底して取り組んでいるのは、常に未来志向のメッセージを発することであり、JUAM会員のみならず多くの大学関係者等々と高等教育機関が抱える課題について、その解決に資する具体的な取り組みを発案、実践し、その成果を講演会、シンポジウム、研修等多岐にわたる活動の中で発表し、ディスカッション等を行うことなどにより、多くの大学職員に新たな視座、知見を与え、その育成に貢献している。
また、本務校(東洋大学)においては、2019年に事務局長(理事)に就任し、様々な大学改革に取り組み、大学の発展に寄与している。
外部では、USR(University Social Responsibility)研究会の発起人となり、USRフォーラムの開催、研究報告書の刊行等に携わり、また、一般社団法人日本私立大学連盟では「財務・人事担当理事者幹事会委員長」、「理事長会議幹事会委員」等を歴任し、財務や人事等経営全般について研究・討議を行い、理事者等にも影響を与え、ひいては各学校法人の経営改善にも寄与しているものと思料する。
JUAMでは、理事、常務理事(2期)を経て、2021年9月から第14代会長に就任し、改革の一環として、すべての地区別研究会に参加し、JUAM理事や会員とのコミュニケーションを踏まえ、JUAMの中長期的な課題に対応するため、会長直轄の「三役タスクフォース」を設置し、その活動は第15期にも引き継がれている。また、株式会社早稲田アカデミックソリューションとの連携等により、JUAMの活動や大学職員の社会的評価や認知度の向上にも寄与した。
以上により、笠原氏の業績は、規程第7条第1項の第一、二、三、四号に該当し、孫福賞受賞に十分値するものである。

5.孫福賞を受賞して
JUAMにおいてこれといって目立った功績のない私がこんな大きな賞をいただくことになり、そのことだけで十二分に心苦しいところではありますが、本日はこれだけ大勢の皆さんの前で挨拶をする機会を頂戴いたしまして、重ね重ね恐縮しているところでございます。
お恥ずかしい話ですが、私は62年生きてきて、賞というものを一度しかもらったことがありません。それも、小学校3年生の時に頂いた賞ですので、かれこれ半世紀以上にわたって賞と縁のない人生を歩んできました。今回、孫福賞の打診をいただいた時も、最初のうちはそれに値する功績はないという理性が勝って辞退するつもりでいたのですが、だんだんお話を聞いているうちに、心の奥の邪(よこしま)な気持ちがムクムクと持ち上がってきて、「くれると言うのだからもらっちゃいなさいよ」と囁くものですから、それに安易に乗ってしまって、今ここに至っているという感じです。
本当に久し振りに賞を頂いたので、気持ちとしてはモーニングを着てここに立ちたいと思っていたのですが、杉原会長や橋本(明子)事務局長をはじめ、皆様から「クールビズで」と言われましたので、今日はこのようなラフな格好で立たせていただいております。

私がJUAMに入ったのは2001年、名城大学で総会があった年でした。それからかれこれ25年が経つ今まで、大きな貢献はできていませんが、塵が積もるような形で評価していただいたのだろうと思っています。
入会時の推薦人は、当時國學院大学にいらした杉﨑正彦さんでした。杉﨑さんにはJUAMではもちろん、USR研究会の活動でもよくご一緒させていただきました。また明大前にあるおいしい料理店をご紹介いただくなど、公私にわたり大変お世話になりました。
もちろんお世話になった方は杉﨑さんお一人だけではないのですが、一人ひとりお名前を挙げていって、挙げた人と挙げなかった人との間で人間関係がこじれてしまってはいけませんので、今日は杉﨑さんを代表としてお礼を伝えようと思います。そしてここにいらっしゃる皆様方お一人お一人にお世話になった思い出がございますので、ここで改めてお礼を申し上げます。どうもありがとうございました。

せっかくの機会ですので、高等教育に関わるお話を少しいたしまして、挨拶に代えさせていただきたいと思います。一つは現在頑張っていること、もう一つは今後頑張っていこうと思っていることでございます。

先ほど永和田様からもご紹介がありましたが、私は東洋大学を今年一杯で辞めることになっています。辞める時期が少しずつ延びていって、ちょっと格好悪かったのですが、昨日ようやく、人事部に退職願を出して、今年の12月31日付で退職することになりました。退職する前にやっておきたい仕事というのが結構ありまして、そのうちの一つが「東洋大学未来塾」の開催です。こちらにつきましてはJUAMの市ヶ谷事務局にご協力いただいて今週、会員の皆様宛てにご案内のメールを発信させていただきました。
「未来塾」の開催には、中期計画を通じて学校法人東洋大学を発展させていきたいというドメスティックな目的がまず一つあります。
もう一つは、東洋大学に限らず、我々大学職員はもっと大胆にと言いますか、躊躇も遠慮もなく教育に直接関わっていくべきであろうという思いを乗せた企画です。
「東洋大学未来塾」の「未来塾」という名称は、昨年の同時期に龍谷大学さんで開催された「龍谷未来塾」のパクリです。ただ、事前に龍谷大学の岡田雄介さんとオンラインのミーティングをして、許可をいただいた上でのパクリですので、「公式アプリ」ならぬ「公式パクリ」ということでお認めいただければと思っております。
中期計画に関係する企画ですので、当然学校法人の理事の方々に多く参加していただいていますし、大学の教員のみならず附属高校の教員、在校生・卒業生、そして大学職員と、オールキャスト的に参加者を集めています。学外の方からのご協力も、私が39年働いてきた中で得た人間関係をフルに使って企画を立ち上げておりますので、ご興味のある方はご視聴いただければ幸いです。

そして最後に、退職後に頑張っていこうと思っていることを一つお話しさせていただきます。これも先ほど永和田様からちらっとお話がありましたように、私は東洋大学の後の人生のフィールドを、伊豆諸島の一つである八丈島に移すことに決めていて、そこでマンゴーの栽培を軸とした農業をさらに発展させて「六次産業」に展開していくことを目指して、今も土日の空いている時間に準備を進めています。
マンゴーの話は高等教育と関係ありませんのでこの場では省略しますが、ここ数年、八丈島にかなりの頻度で通っていて、現地のいろいろな方とお話をしていますと、高等教育を受けた方が本当に少ないということと、高等教育に対するアクセスに関してものすごく大きなハンディキャップを抱えているということをつくづく感じています。
私は長く高等教育の現場にいたので、高等教育というものに対してちょっと慣れてしまっていたのですが、八丈島に行くと、高等教育の底力はやっぱり大したものなのだなと思うところがあります。もちろん私が八丈島に行ったから何ができると思い上がっているつもりもないですし、そこまで楽天家でもありませんが、何かしらのことができるのではないかということを今、考えています。
皆様もご存じのように、ZEN大学さんが文部科学省の認可のもと2025年4月に開学して、年間38万円という学費で大学教育を受けることができるようになりました。地方の大学が高等教育へのアクセスの機会提供に貢献されていることは間違いないことだと思っていますが、地方の中でも極端に交通不便な地方、あるいは島しょ部においての高等教育の機会提供に一番貢献できるのは、地方にある高等教育機関ではない。ましてや東洋大学のような都会の大規模大学でもない。そういう地域ではやっぱりZEN大学のような完全オンラインで学べる大学が一番貢献できるのではないかということを何となく思って、ここ最近、ZEN大学の方と関わりを持って、連絡を取り合ったり、東銀座の歌舞伎座タワーにある法人本部に足を運んだりしています。第2回の「東洋大学未来塾」(2025年10月16日開催)にZEN大学の設置母体である学校法人日本財団ドワンゴ学園の山中伸一理事長にご登壇いただくことになったのも、そうした経緯を踏まえてのことです。
地方の高等教育に関して見識をお持ちの方は多くいらっしゃると思いますが、島しょ部という限定領域において見識がある、専門にしているという方は、ニッチな領域なのであまりいないだろうと思います。なので、今後2~3年の間に、「島しょ部の高等教育については笠原に聞こう」というふうに、小池東京都知事に言ってもらえるように頑張っていきたいということを今、思っているところです。

最後は妄想のような話になってしまいましたが、今回このような抱負を述べる機会をいただきましたことを本当に感謝しております。これをもって受賞の挨拶に代えさせていただきたいと思います。本日は誠にありがとうございました。

<笠原喜明氏プロフィール>
1963年生まれ。
1987年4月 東洋大学入職。朝霞事務部教務課、経理部経理課などを経て、2004年7月 新学部・新学科等設置準備室課長。総務部総務課長、大学改革支援室室長、業務改革室長、総務部人事課長、総務部担当部長(兼務)情報システム部事務部長、人事部長(兼務)経営企画本部事務室長(部長)などを経て、2019年4月に事務局長、学校法人東洋大学理事。2025年4月 経営企画本部事務室担当部長(兼務)TOYOスポーツセンター事務室担当部長。
本会では第8期(2009~2011年)理事、第9期(2011~2013年)、第10期(2013~2015年)常務理事、第14期(2021~2023年)に会長を務める。