■投稿者
澤田博昭(立命館大学)
■開催日時
2022年7月23日(土)13時00分~16時20分
■開催場所
【対面形式】
立命館大学 大阪いばらきキャンパス フューチャープラザ カンファレンスホール他
【オンライン形式】
ZOOM(Webiner)
■参加者数
【対面形式】(会員)36名、(非会員)10名、(計)46名
【オンライン形式】(計)162名
*アカウントで判断できないため、地区、会員・非会員の判別が不可。
【合計】208名
■申込者数
【対面形式】(会員)38名、(非会員)12名、(計)50名
【オンライン形式】(会員)110名、(非会員)95名、(計)205名
【合計】255名
■内容
【登壇者】
森田正信氏(文部科学省大臣官房審議官(高等教育局担当))
篠田道夫氏(桜美林大学元教授)
笠原喜明氏(大学行政管理学会会長、東洋大学)
【ファシリテーター】
岡田雄介氏(大学行政管理学会副会長、近畿地区理事、龍谷大学)
【スケジュール】
13時00分~ 開会、開会の挨拶(近畿地区研究会 代表世話人 澤田博昭)
13時10分~ 【第1部】基調講演 森田正信氏
14時10分~ (休憩)
14時15分~ 【第2部】パネルディスカッション 森田正信氏、篠田道夫氏、笠原喜明氏
14時55分~ 中締めの挨拶(副会長 岡田雄介氏)、(休憩)
15時05分~ 【第3部】ワークショップ 篠田道夫氏(※対面形式会場のみ実施)
15時35分~ 各グループ議論の共有、篠田氏からの講評
16時20分~ 閉会の挨拶(代表世話人 澤田博昭)、閉会
■概要
現在、学校法人ガバナンス改革会議での議論にもみられるように、学校法人におけるガバナンスのあり方が問われており、各大学はより一層の自律的な大学運営の実現に向けた変革が求められている。一方で、学校法人ガバナンス改革会議の議論経過やその報告書の内容に関しては、大学の当事者から様々な意見が出されており、今後の大学運営に関して確信が持てる内容であったとは言い切れないことは多くの大学関係者の共通した認識と考えられる。
このような状況を踏まえ、本企画では、大学運営を担う両輪の一つである事務職員はどのような役割を果たすべきか?どのような機能が期待されているのか?といったことについて考える機会とすべく実施がされた。第1部では大学ガバナンス改革の担当部署である文科省高等教育局の審議官である森田正信氏から基調講演をいただき、大学ガバナンス改革の議論が行われた背景を踏まえつつ、審議の経過やその狙いについて解説をいただいた。第2部では、森田氏に加え、ガバナンス改革や大学職員の役割などについて造詣の深い篠田道夫氏(桜美林大学元教授)と、大学行政管理学会の会長である笠原喜明氏(東洋大学)をパネリストとしてお迎えし、それぞれのお立場から今後の大学運営のあり方についてご意見といただき、議論を行なった。引き続く第3部では、篠田氏のファシリテートのもと、ワークショップを開催し、参加者個々人が自ら所属する各々の大学事情を共有し、比較する中で、課題認識を深める場として実施された。各部のそれぞれの内容は下記のとおりである。
【第1部】森田正信審議官基調講演
森田正信審議官からは、まず、大学のガバナンスはそれぞれの学校法人における意思決定や業務執行の仕組みであるが、その仕組みをなぜ作るのかについて、それは大学が学生や社会のために教育・研究機能を最大限発揮するためであると指摘された。その上で、大学ガバナンス改革の議論に入る前提として、私立大学を取り巻く課題、ガバナンス改革の背景について解説がされた。
まず、「大学の質保証システムの見直し」として、大学設置基準等の改正の議論状況が紹介された。今次の改正の目的は、学修者本位の観点から、質保証システム全体として最低限保証すべき質を厳格に担保しつつも、時代に応じて柔軟性のある仕組みとするため、最低基準性を担保したうえで、大学が創意工夫に基づく多様で先導性・先進性のある教育研究活動が行えるようにするものであるとのことであった。
続いて、「成長分野への大学等再編、文理横断教育の推進」として、2021年12月に岸田総理を座長に官邸に設置された教育未来創造会議の第一提言の内容が紹介された。デジタル・グリーン等の成長分野への再編・統合・拡充を促進する仕組みの構築、STEAM教育の強化・文理横断による総合知創出、大学の「出口での質保証」の強化、世界と比較して不足しているわが国でのIT人材の育成、新たな時代のニーズに応じた学部等への改組の取組事例などについて解説がされた。
「中央教育審議会大学分科会における検討」では、第11期の中央教育審議会大学分科会に大学振興部会を新たに設置したこと、その中では、(1)総合知の創出・活用を目指した文理横断・文理融合教育、ダブルメジャー、メジャー・マイナー等による学修の幅を広げる教育の推進、初等中等教育における学びの変化や文理分断の改善に対応した大学の在り方、(2)各大学での密度の濃い主体的な学修を可能とする学修者本位の教育の実現、ディプロマ・ポリシーに定める卒業生の資質・能力を保証する「出口の質保証」の徹底、社会との「信頼と支援の好循環」を形成する仕組みづくり、(3)大学の「強み」と「特色」を生かした連携・統合、再編等による地域における学修者のアクセス機会の確保や学生保護の仕組みの整備、国公私の役割等を踏まえた高等教育の規模の在り方、以上が議論されてきたことが紹介された。
以上のような背景を踏まえたうえで、学校法人のガバナンス改革、事務職員の役割について解説がされた。私立学校法の改正は累次にわたり行われてきたが、今回のガバナンス改革に関わる議論の論点は、これまでに法律改正の附帯決議などでも指摘されてきていることが解説された。
なお、「学校法人ガバナンス改革会議」での議論について、本会議には現職の学校法人の関係者は入っておらず、会社法をはじめとするガバナンスの専門家による検討であったが、これは、利害関係から離れて、専門的な立場からガバナンスを制度設計したらどうなるか、という視点からの検討であり、一つの参考として重要な視座を得られるだろうという位置づけであったこと、そして、その結論が評議員会を最高監督議決機関にするということであったこと、一方で、学校法人にはそれぞれ独自の設立の経緯や経過があるため、学校法人関係者と丁寧な合意形成を図ることも重要であり、そのため、議論が左右に揺れたように見えたのかもしれない、との補足があった。
引き続き、「大学設置・学校法人審議会 学校法人分科会 学校法人制度改革特別委員会」での私立学校法の改正案の議論について報告がされ、「執行と監視・監督の役割の明確化・分離」の考え方を基に、理事会を意思決定機関とするという基本を維持したうえで、理事・理事会、監事及び評議員会のそれぞれの権限を明確に整理・分配を行うこと、私立学校の特性に応じた形で「建設的な協働と相互けん制」を確立する必要であることが指摘された。この改革では、評議員会議長、評議員会の運営をサポートする事務局・法人職員の役割が大きくなることが予想されることも指摘がされた。
以上のように大学ガバナンス改革の議論の内容を踏まえたうえで、事務職員の役割の今後について問題提起がされた。「中教審大学分科会『教育と研究を両輪とした高等教育の在り方について』」では、教育研究支援業務や管理運営業務については大学の専門職が担うといったチーム型の組織マネジメントに転換を図ること、管理運営は大学の専門職によるマネジメントへと変革すべきであること、事務職員は、大学経営やマネジメント層の中核となる人材として機能を発揮し、大学経営人材として活躍するなど、変革をリードしていくことが望まれること、大学執行部や教員が事務職員の役割の重要性を理解し、 大学経営をはじめとした可能な限りの管理運営業務を事務職員が担っていくという発想への転換が求められることなどが取りまとめられていることが紹介された。
そして、各大学においても、事務職員のあるべき姿や期待すること、それらの役割や業務について明らかにし、やりがいのある魅力的なものに変えることにより、大学職員という職業の価値を更に高め、採用段階から大学運営を担う意欲的な人材確保につながることを期待したいこと、今後、大学のマネジメント人材の育成、事務職員の高度化・専門性向上、マネジメント人材の学内の部署間・大学間の流動性を高めていくことが必要であり、各大学において、課題解決のための部署横断のプロジェクトチームを編成した協働の取組などにより、事務職員の経験知やスキルを高めることが求められること、大学や大学関係団体等が実施する大学経営人材の育成に資する研修や教育プログラムを積極的に活用し、恒常的に職員の能力開発・向上に努めることが必要であること、また、各大学においては、大学のビジョンに基づく大学職員の戦略的な採用・育成計画を策定し、職員のキャリアプランを明らかにするとともに、年功序列にとらわれない人事給与制度の下で優れた人材の登用・配置に取り組むことが望まれることが説明された。そして最後に、人材育成の役割として大学行政管理学会の役割が大きいとの学会活動への期待が述べられ、基調講演がまとめられた。
【第2部】パネルディスカッション
第2部では、最初に篠田道夫先生より問題提起がされた。篠田先生は、法令改定をどのように見るのか、どう改革に活かしていくのかという視点が重要であると指摘した上で、今回のガバナンス改革に関わる基本的考え方として、チャンドラーが言うように、「組織は戦略に従う」=つまり組織(経営規律)が先にあるのではなく、まずは実現すべき目標、戦略(マネジメント)があり、これを達成する手段として組織(ガバナンス、コンプライアンス)はあり、大学目標を達成するには、このガバナンスとマネジメントの両面の改善が欠かせないこと、学修者本位の教育や質向上、入学者確保を実現するうえでは、理事会や理事長、学長のリーダーシップによる中期計画に基づく改革推進のマネジメント強化が不可欠であることか指摘された。その後、今回の改訂で注目するポイントと、その影響について、学外者の大学経営への参画が拡大すること、評議員会の権限拡大で議論がシビアになるであろうこと、理事の職務遂行や資質がより問われること等の影響が指摘され、不正防止策としてこれに対応する寄付行為改訂を行っただけでは不十分であり、改訂事項の中から、経営や大学運営の本質的改革につながる課題を導き出し、本格改革を行うべき提起として受け止め、如何に攻めのガバナンス強化に繋げられるかが重要であるとの指摘された。その上で、法改訂を改革の前進につなげるために必要な視点として、(1)大学の支援者である学外者との関係を強化すること、(2)法改正を内部改革の力にすること、(3)理事・役員の責任と資質を向上させること、(4)内部対立、利害調整型運営の改善をすること、(5)中期計画を軸とした大学運営の強化が必要であること、以上の5点が指摘された。
引き続くパネルディスカッションでは、岡田雄介副会長のファシリテーションのもと、意見交換が行なわれた。篠田先生からは、大学のガバナンスの型には、理事長・学長兼務型、学長理事会任命型、学長選挙型などがあるが、2015年度の学校教育法改正で学長が最終意思決定権限を持つことになっており、法令に従えば、その通りになるが、教育の質はガバナンスの質であり、少しでも前進させる必要があるとの指摘がされた。
笠原善明会長からは、理事会と評議員会の新しい関係をどう構築していくのかが重要であること、理事と評議員の兼務者がいることにもメリットはあり、それは理事会と評議員会の足並みが揃うことや、理事が評議員を兼ねているので、評議員会全体の水準が維持できている面があるとの指摘があった。その上で、原則に立ち返り、執行と監視監督の明確化、建設的な共同と相互牽制をどう実現していくのかが重要であると指摘がされた。また、評議員は学校の教育研究への理解や法人運営の識見を有するものとされているが、評議員に何を期待するのか、就任時に理解していただくことが必要であること、また、識見を持った方のグループを作って議論を深めることで理事・評議員の関係が深まるのではないか、との指摘がされた。
引き続き、事務職員の役割が拡大することについて、学会としてどのようにコミットするか?との質問には、事務職員の活躍の場が広がっているが、このチャンスを活かすことができるのは常に準備をしているかどうかであり、個人や組織の問題であること、この職員をどう育成していくのかの責任は大学にあるが、個別の大学で育成することが難しいことの限界性もあり、ここに学会の役割があることの認識を示された。また、学会と外部の機関との連携も考える必要があり、文教政策にどうコミットしていくのかについては、行政からの意見聴取に応えられる人財を確保しておく必要があり、さらには中教審の委員を学会から出すことも目指したいとの回答がされた。
参加者との質疑では、今後の評議員会の運営に関する助言をもらいたいとの質問が出され、森田審議官から、事務局の機能を担う職員の役割は大きいこと、評議員の候補者の大学に対する意識と考え方を日常的につかんでおくことが重要であるとともに、大学や法人の状況や方針を理解していただくことが必要であること、自法人の評議員会について、どのような評議員会を作っていくのかを主体的に関わって検討していくことが重要であるとの回答がされた。また、今次の改革について職員に関わって、課題と影響を考えたときにどう考えるのか、との質問には、森田審議官より、両者の新しい関係を作ることが必要であり、この仕事はアドミニストレーションの仕事であること、管理運営のことを過去の経過を含めて考えているのは職員であり、これを伝えるという重要な役割があること、評議員会をどうするのかについては知恵を絞る必要があり、法人部門への人員配置が必要なので、仕事や配置に出る可能性があるだろうことが指摘された。篠田先生からは、理事の体制強化、学外者との連携、合同研修会の企画運営、中長期計画への教職員への共有と一致が職員に求められること、笠原会長からは、関係者をつなぐ役目であることが指摘され、教員よりもいわゆる「汚れ役」が得意であること、実態のデータを持っていること、関係者の認識を正すことができることなど、絶妙な立ち位置での役割が指摘された。
第2部を終了したのち、オンライン会場での開催は終了され、中締めとして岡田副会長より挨拶がされた。
【第3部】ワークショップ
ワークショップでは、参加者がそれぞれのグループに分かれ、「ガバナンス改革、私学法改訂は、大学運営にどのような影響をもたらすか、問題点は何か、逆に改善につなげられる点は何か?」、「問題点をどう解決するか、プラス面があれば、どうやって改善に繋げるか、これらの改善方策をできるだけ具体的に提案し、それら全体を推進する職員の役割はどこにあるか、何をしなければならないか」について議論がされた。議論の後、各グループでの議論状況が発表され、篠田先生より講評をいただいた。
最後に、近畿地区代表世話人の澤田常務理事より閉会のあいさつがされ、企画を終了した。
■まとめ
本シンポジウムはコロナ禍において、この間実施されてこなかった、対面形式を含めた開催であった。テーマについての関心の高さと、講師の方々の知名度もあり、多くの方の申し込みと参加をいただいた。ワークショップでは、感染対策を実施しながらというやりにくさもあったが、非常に活発に情報共有や意見交換が行なわれ、対面形式での利点を改めて感じさせる企画となった。
内容としては、大学ガバナンス改革や私立学校法改正の中身を受け身ではなく、主体的に改善につないでいくという姿勢が重要であること、その中で職員の役割がますます重要であることが共通認識として共有されたと考える。また、職員自身が学内外での研鑽を通じて力量を向上させ、その期待に応えることの必要性も確認されたが、その中での大学行政管理学会の役割が改めて浮き彫りになったと認識されるものである。この企画を契機として、将来の職員のありようを具体的に検討する企画を実施していくこととしたい。