1. テーマ: 「香港の中学・高校教育と大学進学」
2. 開催日時:2022年1月22日(土)14時00分~16時00分
ZOOMによるオンライン開催
3. 参加人数:講師を含め7名(講師として招いた銭氏以外は当学会会員)
4. 概要
(1) 開催経緯と実施概要
関東地区研究会では、これまでも「香港の教育」の理解を目的とする研究会を実施してきた。例えば、2017年度第4回研究会(平成30年4月21日)では、HKDSEを中心とした香港の大学入学試験制度と受験生の動向をテーマの一つとして取りあげた。また、2020年度第4回研究会で行われた「大学職員ビブリオバトル」において、「香港と日本 -記憶・表象・アイデンティティ」(銭俊華氏著)がプレゼンテーション対象の書籍の一冊として扱われた。更に、それぞれの所属大学で香港からの留学生獲得業務に関わる世話人も複数いることも手伝い、世話人の中で「香港の教育」に強い関心を持って注目してきた。今回の研究会は、「香港の教育」への理解を更に深めることを目的に企画されたものである。
前述の銭俊華氏は香港で中等教育を受け、学士課程を終えて、現在は東京大学大学院総合文化研究科博士課程で研究活動を展開している。コロナ禍で国境を越えての移動が制限されている中で、研究会世話人がコンタクト可能で、香港の実際を知る貴重な人材と捉え、香港の教育を学ぶための講師に銭俊華氏を迎えることを依頼し、承諾を得た。
当初は、関東地区研究会世話人の中の勉強会として開催することも検討したが、JUAMの会員の中に、世話人同様に香港の教育に興味を持つ方がいることを想定し、関東地区研究会として開催し、会員からも参加を募ることとなった。
この会は、講師との率直な情報交換を行うために、対面形式かつ小規模の研究会として企画されたが、2022年1月に入り新型コロナウイルス感染症が「第6波」と言われる状況に入り、対面実施を直前に断念。ZOOMによるオンライン開催となった。
なお、研修会実施にあたっては、銭俊華氏の著書「香港と日本-記憶・表象・アイデンティティ」(ちくま新書)の通読を研究会参加の事前課題とした。
(2) プログラム内容及び発表者
<プログラム>
①開会挨拶(成蹊大学 松尾隆)
②研究会「香港の中学・高校教育と大学進学」
イントロダクション (國學院大學 石山昭彦)
Part I
香港の中等教育課程とHong Kong Diploma of Secondary Education Examination (HKDSE) の現状を知る(早稲田大学 赤松茂利)
Part II
香港の中学・高校教育と大学進学(東京大学大学院 銭俊華)
③閉会挨拶(学習院大学 宮澤文玄)
(3) 研究会内容
イントロダクション
研究会の導入として、中国返還以降日本で報じられた香港での事象(1997年中国への返還、2019年の抗議活動とそれに続く香港の変化など)について新聞記事を引用しながら石山氏より紹介された。
Part I
香港の中等教育課程とHong Kong Diploma of Secondary Education Examination (HKDSE) の現状を知る
イントロダクションに続いて、赤松氏より香港の中等教育、ならびに大学進学に必要となる大学入学統一試験(HKDSE)に関する発表が行われた。2024年のHKDSEより、試験科目「Citizenship and Social Development」が新設されるなど、変化の過渡期にある香港の最新事情が語られた。
Part II
香港の中学・高校教育と大学進学(東京大学大学院 銭俊華)
銭氏より、香港出身者にしかわからない、香港の中学校(高等学校課程を含む)、大学の仕組み、昨今の教育の変化などが語られた。
まずは、日本の仕組み、実態と対比しながら内側から見た香港の中学校の仕組み、大学生の意識が紹介された。例えば、多くの香港の中学校ではハウス・システムが採用されていることが日本との違いとして挙げられた。これは、学年横断的に組織された学内のグループで、ハウス対抗のスポーツ大会などが実施されており、生徒は、入学するといずれかのハウスに配属になる。学校の運営システムに強く英国の影響を受けていることが伺い知れた。その一方で、日本の中学校、高校と同様に部活動や生徒会も組織されている。
大学では、アルバイトや入寮、恋愛などが学生の「必ずやる5つのこと」であると言う。そのうちの1つである「上荘」は、学生会や寮、部活などを高度な自治で運営していく、香港独自の学生文化として紹介された。日本の大学生と重なる部分も多いが、例えば、政治色のある活動への積極関与という面においては日本の学生とは異なるという。
また、昨今の教育の変化についても語られた。例えば、中国式の教育が指導要領に導入されつつあり、教育の各段階(初等教育、中等教育)に変化が出始めているという。大学入試(HKDSE)については、日本の一般選抜のような知識偏重型の出題方式ではなく、アダプティブ・インテリジェンス重視の姿勢が紹介され、HKDSEの中国語(普通話)作文、口頭試験問題や、英語Writing問題が例示された。
香港から日本への留学については、「卒業後の就職を重視した」アジア型の指向ではなく、「自分の興味・関心を追求する」欧米型の指向である旨の見解が示され、「香港の教育における日本の取り扱われ方」「実学教育を目的とする日本留学拡大の可能性」などの銭氏の今後の注目点が紹介され、発表が締めくくられた。
以 上