(関東地区研究会)2021-2022年度 第4回関東地区研究会 開催報告

■テーマ:「これからの時代に期待される大学職員について」
■開催日時:2022年6月11日(土) 13時30分~16時00分 オンラインでのライブ開催
■参加人数:申込者計160名(会員割合48.8%・78名)
■概要
1. 開催経緯と実施概要
(開催の経緯)変化の激しい時代の中において、「これからの時代に期待される大学職員」を考える機会として企画した。はじめに基調講演として、津田塾大学の髙橋裕子学長より、「大学の根幹を支える『大学職員』とは」について講演いただき、3名の大学職員によるパネルディスカッション、質疑応答を行った。髙橋学長は、大学職員論叢(大学基準協会発行)第9号の巻頭言にて「『大学職員』という用語をめぐる一考察」を寄稿され、その中で「日本の高等教育を強化していくために『大学職員』と呼ばれる専門家集団をプロフェッショナルとして育成していく必要があるだろう」とするなど、随所で大学職員に対する期待を発信している。自身が、学長または学長補佐等の立場で、大学職員と長きにわたり密接に仕事をしてきた経緯もあり、日ごろから自大学の職員への期待も高い。このような背景から今回講演を依頼することとなった。

◆プログラム内容及び発表者
<プログラム>
(1) 基調講演|大学の根幹を支える「大学職員」とは‐Educatorsとして、Administratorsとして 津田塾大学 高橋裕子学長
(2)パネルディスカッション
   <パネリスト>
   ・杉原 明氏(学校法人工学院大学 理事・総合企画部長、JUAM副会長)
   ・青木 加奈子氏(共愛学園前橋国際大学短期大学部キャリアサポートセンター、JUAM北関東・信越地区研究会世話人)
   ・檜森茂樹氏(名城大学 総務部課長、JUAM 大学人事・事務組織研究グループ)
(3)パネリストの方々への質疑応答

2.実施状況
(研究会概要)
(1) 基調講演 
『大学の根幹を支える「大学職員」とは‐Educatorsとして、Administratorsとして』という表題で、海外や日本の高等教育の実状に触れながら、75分に及ぶ熱意のこもった講演であった。ご自身が学長を務める津田塾大学では、「Staff as Educators」を学長室運営方針と掲げており、日頃から職員にもその期待を伝えている。日本における「大学職員」という職名は、実際の大学職員の幅広い高度な職務領域や役割を充分に表現できてはいないのではないか、米国ではHigher Education Administratorsと呼ばれる専門家集団として扱われているが、日本における「大学職員」という用語では、その姿を適切に捉えられておらず、いわば「名前のない問題」を経験しているのではないか、という発題であった。そのうえで、職域があまりに広範な「大学職員」という漠たる呼び名を再検討して、アドミニストレータも含む大学の教育・研究・財政基盤を支える専門家集団を指し示す日本語の名称を作り出す必要があるのではないか、米国を例にあげながら、高等教育に従事するプロフェッショナルを大学院教育を通じて育成し、正当に評価していく仕組みを構築していく必要があるのではないか、という提言があった。そして、高等教育の根幹を支える大学人として、今の混迷する日本に対して何を貢献できるのか、世界に対して何ができるのか、という大所高所からの期待で締めくくられた。

(2) パネルディスカッション
前半は、3名の職員より日頃の想いを語っていただき、後半は髙橋学長も加わって対話をした。前半の一人目は学校法人工学院大学 理事・総合企画部長の杉原明氏。高等教育の根幹を支えるプロフェッショナル人材を目指すことの必要性に強く共感する中で、前職の民間企業的な学校法人での経験を踏まえながら、民間企業と大学業界の業務に大きな差異はなく、民間企業も参考にすることが大切ではないか、現場における一つの課題としてロールモデルとなる対象者を持ちにくいのではないか、という提言があった。
 二人目は共愛学園前橋国際大学短期大学部キャリアサポートセンターの青木加奈子氏。自身の多様な複数校での経験を背景に、職員の在り方について、教員との関係性という視点からの話であった。学校法人の形態や規模によっては、教員が一定の事務を担うケースもある。教職協働は、それぞれの役割を分離・定義したうえで、どのように協働するかを合意していくプロセスが必要、理想的にはそれぞれの大学、短大、組織で考えていくことではないかという提言があった。
最後は名城大学総務部課長の檜森茂樹氏。髙橋学長の講演を受けて、学長自ら大学職員の位置付けや期待を語ってくださった事への謝意とその重要性を表明したうえで、例えば銀行員論なるものはなく、大学職員論の前に一働き手としてどうあるかという視点を前提に持つべきではないかという提言があった。さらには、自身の大学院での学びの経験を踏まえ、大学院の意義に共感しながらも、それはあくまで成長の方法論の一つであり、正解やマストにする必要はなく、どんな仕事や役割を担うか、その成果によってどんな学びが良いか決まってくるのではないか、という提言があった。
後半は髙橋学長にも加わって頂き、話題を深めていった。髙橋学長からは、「入学してから卒業するまでの4年間、生涯にわたってインパクトを与えるような教育を提供したい。人を育むことは総動員でやることであり、学生に接する人はみな Educatorsである」という話があった。檜森氏からは、「日本の最高学府で働く者として、教育を支える人材である大学職員にとっては学ぶことが一番の専門性と考えたい。大学院という商品を扱うのであれば、本来なら商品について知っておく必要があるという考えもある」という話があった。杉原氏からは、「大学人として、職員も教員も同じように教育・研究を理解することは非常に大事である。専門性が問われる学生募集や財務会計は職員に任せてもらうなど、役割分担していくことが理想的と考える」という話があった。青木氏からは、「教員と職員を考えるとき、相手方の営みを知ることが大切。大学院で研究がどういうことか学ぶことで、教員の立場を知ることにつながる面はある。何を学ぶかはなんでも良いのではないか。学生の身近にいる大人として、学ぶ姿を学生に見せることは充分意義があること。教職の役割分担は、お互いの役割の定義づけあっての協働と考える」という話があった。
パネルディスカッションの最後に、髙橋学長からは、「日本の高等教育の未来に向けて、次世代・次々世代の在り方も含めた話をさせてもらった。日本の大学教育を皆さんと共により良いものにしていきたい」と締めくくられた。

(3) 質疑応答
限られた時間の中で、参加者から出た質問に対し、パネリストの方々に回答頂いた。最初の話題は「大学職員」という用語に関する件。「用語については、大半の大学は中小企業のようなものであり大学だけに閉じた考え方をしない方が良いのではないか(杉原氏)」、「設置基準において大学職員の役割に関する細かな規定がなく、だからこその自由度があるのではないか、そこから発展して職員が職務領域を広げていくことで大学改革が進むのではないか(檜森氏)」、「教員の範疇の定義づけを先にし、それ以外の分野を職員が対応していくのが良いのではないか(青木氏)」、という話が出た。
その他、参加者からの意見として、「職員に対する名称の問題は表面的なことで、評価ということであれば、もっと本質的なところでJob Descriptionなどの問題に切り込む必要があるのではないか、それがないと評価にもつながらないのではないか?」については、「我々の大半の規模は中小企業のようなもの。何百人規模の大人数であれば職務を分けてという展開にもなろうが、小規模だとそのような事は言っていられない面はある。ただ、各組織の定義づけや機能の明確化は必要、例えば学生募集は必須事項。そういった面で、Job Descriptionは必要であり、その中で教員、職員がそれぞれで貢献していければ良いのではないか(杉原氏)」、「必要な能力は厳密に定義されていく必要がある。それが、例えば大学院の学びのこういった分野の人が必要という話になっていくのではないか(青木氏)」といった話が出された。
 最後は、「変えていきたい風景」「共通して求められる能力や志向、経験など」について触れていただいた。檜森氏からは「社会に求められ認められる大学にするにはどうすれば良いか、単なる事務作業ではなく、大学改革の担い手という実感を持てることが大切。経験から、職員の大切なことを一つあげるなら、それはバランス力。教学と法人の真ん中に職員がいる。教育的な必要性と経営的な制約のバランス。それを事務として、資料に落とし込んで提案し、トップや先生方に認めてもらえるか、そこが仕事の本質と考える」という話であった。続いて青木氏からは、「地方では、高校卒業後の進路として、就職は必ずしも珍しいことではない。割合として4年制大学への進学が最も高いが、進学しないことを選ぶ人はまだまだ少なくない。 この短大で学べて良かったと意識して卒業してもらうことが一番の目標。この目標を、今の職場の新しい仲間たちと共有し、一人一人が考えていける職員にお互いなっていきたい」。最後に杉原氏からは、「大学職員はロールモデルを持ちづらいと話したが、大学は組織としての未成熟さがあり、これからどんどん変わっていくのだと思う。必要な能力をいろいろ考えてみたが、一言でいえば『問題解決能力』であると思う。あらゆる問題が大学には転がっており、それらを解決していくことが大切。経験からもそう実感する。」という話があった。

3.今後に向けて
今回、全国から約160名の方より参加申込をいただき、参加者数、事後アンケートの回答からも本テーマへの関心度の高さを表していると思われる。講師、パネリスト皆さんからの提言・意見を聞くことで、参加者それぞれが考えを深め次の行動につなげる機会の提供は果たせたと考える。申込者の半数を超えた非会員の方々へ向けてJUAMの活動内容を知って頂く機会にもなった。時間の関係もあり、充分なディスカッションや質疑応答にいたれなかった点等について運営面での課題は残したが、何か明確な答えが出るテーマではない中で、大学トップリーダーの視点、多様な現場で実務を担うパネリストの視点、参加者からの事前質問やチャットに寄せられた多くの貴重な意見から、今回の研究会を通して様々な視点が提示され共有できたことに意義があったといえよう。
なお、高橋学長の降壇後に、同大学の根本学長補佐より、本日の総括と職員側の視点からの津田塾での実情について述べられ、トップが述べる意見と現場との受け止め方の乖離を課題として問題提起がなされ、今後のJUAM内の各種研究会とも連動し実務に落とし込んでいくことの必要性をもって本日のまとめとした。

参考|事後アンケート結果より/回答数64件/・内容について満足との回答(76.6%)、・基調講演について満足との回答(76.5%)、・パネルディスカッションについて満足との回答(53.2%)、非会員の方28人中入会を検討中(32.1%)

■関東地区研究会:代表者/学校法人学習院 宮澤文玄・投稿者/白梅学園大学 佐々木理葉

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