第8回孫福賞(各務 正)

第8回(2014年度)孫福賞受賞者

各務 正 氏(順天堂大学)

1. 表彰日:2014(平成26)年9月5日(土) 2014年度 定期総会・研究集会

2. 場 所:東北学院大学 土樋キャンパス

3.表彰内容:

孫福賞選考規程第7条第1項第二号( 委員会、支部・地区別研究会、テーマ別研究グループ等の成果又は構成会員の特に優れた業績)及び第三号(大学職員の社会的若しくは国際的評価又は認知度の向上に関わる特に優れた業績)に該当し、同規程第2条第二号、第三号及び第四号により、孫福賞を授与する。

(1)委員会、支部・地区別研究会、テーマ別研究グループ等の成果又は構成会員の特に優れた実績(規程第7条第1項第二号)

 各務 正氏は、本学会黎明期の1997年から学会での活動を始め、「大学職員」研究グループを今日に至るまで率いてきた(グループリーダーは1999年10月から)。 初代会長の故孫福 弘氏から直接薫陶を受け、グループリーダーに推挙されたことは隠れた事実でもある。  同氏が現在もリーダーを務める「大学職員」研究グループは、本学会のオリジナル研究グループの一つであり、大学職員そのものを研究対象としている。このことは、 本学会開設趣旨の説明と参加の呼びかけに示された「プロフェッショナルとしての大学行政管理職員の確立を目指して」いること自体を研究しているといっても過言ではなく、本学会の哲学的な側面を下支えしている研究グループであるともいえる。
 同研究グループの主な活動においては、「大学職員-その属性」(2001)、「大学行政管理学会員を対象とした大学職員現状意識調査の意義と概括」(2004)、 「国公私立大学長と私立大学理事長の大学職員に対する意識調査報告(第1報)」(2006)、「国公私立大学長と私立大学理事長の大学職員に対する意識調査報告(第2報)」(2007)、 「プロフェッショナルとしての大学アドミニストレーターの専門性-大学職員の視点から-」(2007:研究集会でパンフレットを配付)などを取り纏め研究成果として発表し、 常に先頭に立ち継続的に研究を推進してきた。同研究グループに所属する会員の主要メンバーの5名(うち3名は教員に転進)が同研究グループに所属してからそれぞれ異なる専門分野で博士学位を取得し、 現在も本学会において研究活動を継続しているのは、同氏の指導力の一面を垣間見るものである。
 また、若手職員の育成にも力を注ぎ、毎年複数回にわたって関東地区を離れて各地区で研究会を開催するだけでなく、夏季休業期間中に2泊3日にわたる合宿研究会を開催し、 昼夜を分かたず若手職員も交えて意見交換を行い、日常業務における職員としてのスタンスやその能力の発揮・開発といった現場における職員の悩みにまで懇切丁寧な指導を行うことからも、 年代を超えた支持者が多いことを裏付けている。一例ではあるが、北海道地区の若手職員を中心とした研究会の開催が定着する際の同氏の貢献度は極めて大きい。
 さらに、研究グループとして毎年本学会研究集会で発表を行うに当たっては、同氏が取り纏めを行い、グループのメンバーと共に発表を行うスタイルが確立しており、 研究集会ではワークショップのコーディネートを担当している。毎年研究集会で発表する研究成果の内容は概ね翌年発表の学会誌に掲載されてきた。なお、同氏は2011年3月に順天堂大学大学院医学研究科を修了し、 博士(医学)の学位を授与されるなど、多彩な能力を発揮し、所属大学においても自らを律し刻苦勉励の範ともなっている。
 同氏は、本学会黎明期の1999年から研究グループのリーダーとして今日に至るもなお、本学会の一つの「顔」として学会活動を継続してきたことは賞賛に値するものといえよう。

(2)大学職員の社会的若しくは国際的評価又は認知度の向上に関わる特に優れた業績(規程第7条第1項第三号関係)

 同氏は、本学会だけでなく大学職員自体や大学職員を取り巻く様々な課題に挑戦し、優れた研究成果を発表し、学会の内外においても我が国の高等教育の発展に寄与すべく多様な活動を展開してきた。 同氏が博士(医学)の学位を取得したことは既述したが、医学教育の分野における職員の関わり等についてフォーカスし、所属大学において研究成果を発表してきた。また、大学職員研究については、 本学会をはじめ私立大学連盟や大学基準協会等にもその研究成果を発表してきている。特に、名古屋大学や東京電機大学及び私立大学連盟の研修、並びに四国地区大学教職員能力開発ネットワークの講師を務めるなど、 自らの研究成果を世に問うだけでなく、本学会活動の社会的な評価及び認知度を向上させてきている。
 近年では、科研費基盤研究(C)「大学事務組織機能評価基準の新たな開発とその応用―事務組織と職員能力について」(H24~26)の研究代表者として研究の取り纏めを行いつつ、当該研究を先導している。 共同研究者及び研究協力者には同研究グループのメンバーも名を連ね、本学会での実践的研究成果をさらに向上させる努力を惜しみなく継続している。H25(2013)年の同研究を遂行するに当たっては、 米国ワシントン大学ボゼル校(UWB)のディレクター及びマネージャークラスの職員と研究交流すると共に、プロボストとも交流を図るなど本学会の国際的な評価を勝ち得たことは記憶に新しい。

5.孫福賞を受賞して

 私の孫福賞受賞は、本当に皆さまからの尊いご支援の賜物です。この発端は、孫福さん。1999年1月に東日本地区として組織・業務管理、大学人事、大学職員の研究グループを立ち上げるので、 日本橋丸善6階の事務局に来てくれという電話に、すべてのカラクリがある。初対面の私に特に興味をもたれたのは、前年に「大学職員の専門性」を学会誌に投稿し、その原稿を事前に読まれたからだろう。 孫福さんと共にしたのは1999年から2004年までの5年と短い。「大学職員」研究グループ発足当初は、研究の方向性が定まらず参加者も少なかった。 そんな折に本学での研究会を覗かれ、帰り際に、とにかく続けて大学職員の研究を頼む、そう言われて今日に至っている。孫福さんを介して刺激的な人々に出会っている。 村上義紀さんからは「各務、職員なんぞ大学に不要じゃないの」というアナーキーな呪文を浴びせられ、常に発奮させられた。親友の布施芳一(前桐朋学園)の職員研究に突き進む気概には、 私は「何処でもドア」と呼んでいるが、その破壊力にいつも感嘆している。また、井原徹さんの一言で研究活動も変革した。拠点が東京のみでは限界があると思い、地区を超えて研究会を開催したいとお願いした。 即答だった。どこで開催してもいいよ。これによって「大学職員」研究グループの活動が一挙に広がり、多くの方々と触れ合う機会が出来た。研究活動において、特に若い大学職員の参加があったときには、 丁寧に深く考える体験を大切にしている。毎回の研究会でも“Think much; publish little”(深く考え、資料は少なく)というAbraham Flexnerの言葉を引用し、 高邁な講釈 や資料などは不要であるという実践者としての銘を紹介している。これは、いつも誰にでも笑顔を絶やさない山本忠士さん(前亜細亜大学)の、 真の強い職員としての生き方から学んだ若い職員へのちょっとした御裾分けと思っている。科学として、例えば、医学は、多くの屍の上で発展し、法学は、多くの不公平さ、 あるいは会計学は、多くの税金の不正といった問題や失敗を乗り越えて大きく発展している。では私たちの大学行政管理学は、どうか。失敗が活かされるまで十分にまだ体系化されていないかもしれないが、 私として、後で使える失敗の一つくらいは加えることができたのでは ないかと自負している。今年は、孫福さんが亡くなって10年目、また私の3年間の科研の最終年度、そして65歳の定年の歳。 この時期に孫福賞をいただくのも、何かの縁を感じる。

<各務 正 氏プロフィール>

<学歴> 1972年3月 東京都立大学経済学部卒業、2011年3月 順天堂大学大学院医学研究科修了 順天堂大学博士(医学)授与

<職歴> 1972年4月 順天堂大学医学部附属順天堂医院医事課、看護専門学校事務室、医療短期大学建設本部 係長、医学部教務課 課長、 医療看護学部建設本部 課長、医学部教務課、学生課 課長、医学部学術研究支援課 次長、大学院事務室 次長、企画調査室、国際交流センター 部長に就任し、現在に至る

<その他役職>
1999年4月~1999年10月「大学職員」研究グループ・サブリーダー、1999年10月~「大学職員」研究グループ・リーダー