会員編集の書籍紹介『職員がつくる教育と研究の新たな仕組み』

本会会員の立命館大学 大学行政研究・研修センター 近森節子氏編集による本が東信堂より刊行されましたので、会員諸氏に紹介致します。

<書籍名>大学行政政策論
~職員がつくる教育と研究の新たな仕組み~
定価2,300円(税別)
ISBN978-4-7989-0035-3

<目次>
はじめに
第1章 理工系学部生の学習支援              ・・・高井 響
-ラーニング・コモンズの構築
第2章 必修英語に「プラスα」する正課外英語プログラム   ・・・山下 正克 
第3章 理工系学部の総合的「学び支援システム」       ・・・平居 聡士
第4章 文学部学生の「社会人基礎力」の養成         ・・・稲森 裕実
第5章 APU学生寮におけるリビング・ラーニングコミュニティ  ・・・大澤 芳樹
第6章 国際的に通用する人・社系博士学位取得        ・・・三好 真紀
-そのプロセス・マネジメント・システム
第7章 自然科学系ポストドクトラル・フェロー        ・・・羽等 規友
-そのキャリア支援策
第8章 自然科学系産学官連携・研究推進人材の育成      ・・・石間 友美
-専門性育成・キャリアパスプログラムの開発

◆内容
大学行政政策論集
教育・研究現場の課題を抽出し、解決策を導く

今日、大学職員の仕事は大きく変容している。
一昔前のいわゆる「事務処理屋」から「政策を創り、執行する」業務への変化である。
例えば、立命館大学の事例をみても、80年代の大学改革の進展の中で、職員の業務領域の拡大と高度化は大きく進んだ。当時、立命館大学の改革は「国際化・情報化・開放化」をキイワードに進められたが、これを受けて調査室、国際センター、広報課、募金事務局の業務単位が次々に新設され、また教学部から入学課が、学生部から就職部が独立して再編強化された。これら新課の業務領域はいずれも社会との関係ではじめて仕事が成り立つ単位であり、職員には社会的視点と学外とのネットワークを構築する力量が求められるようになった。
 90年代には、社会的ネットワークはさらに質的に変化した。例えば研究支援の強化のため教学部から独立した研究部は、外部資金の導入により研究の推進をはかるため産官学連携のリエゾン活動に取り組みはじめる。                           
それに伴い、新設されたリエゾンオフィスのスタッフには、研究資源の見極めと適切な調達、研究分野の特色を打ち出す力、即ち、研究を「戦略」化できる力、総合的な研究マネジメント力が求められるようになった。これは、従来のように「定型業務をこなす」ことでは勤まらなくなったことを意味する。
また、60年代にはじまった事務電算化は80年代に本格化し、単純大量処理業務やパターン的処理業務から職員を解放した。さらに90年代、経済合理性の視点から「多様な雇用形態」をキイワードにすすめられた嘱託職員制度の広がりは、専任職員に対して嘱託職員と明確に質的に区別できる高い業務内容・水準、即ち「専任でなければならない業務」を求めるようになった。
「専任職員でなければならない業務」は職員の仕事を変える画期となった。それは、契約職員制度の導入や事務のIT化によって「定型業務」を期待されなくなった職員に新たに求められるようになった業務、即ち、仕事の課題を見つけ出し、解決策を見出し、目標達成に向けて仕事を組み立て、実行する業務能力やこれらの業務をマネジメントする能力である。
もう一つの学園における画期は、2000年4月、立命館が大分県別府市に立命館アジア・太平洋大学(APU)を開設したことによってもたらされた業務の国際化である。APUは日本で初めての本格的な国際大学で、学生の50%、教員の50%を外国籍とするAPUのコンセプトは、職員に求める仕事の質を飛躍的に変化させた。日英2言語による大学運営は、当然のこととして職員に英語で教員・学生とコミュニケーションができるスキルを求める。また、競争相手が国内にとどまらない世界レベルの競争環境下にあっては、国際通用性、国際水準、国際慣行といった視点が当たり前のこととして求められる。海外の高等教育事情への理解は仕事の前提である。修士号が当然という海外の大学職員との折衝の中では修士学位取得も現実のテーマとなる。職員には文字通りグローバルな視野と業務の国際水準が求められるようになったのである。
 
80年代半ば以降、休むことなく続けられてきた立命館の長期計画に基づく大学改革は、それを支え、可能にするスタッフを出現させてきた。次々に立ち現れる課題に真正面から取り組むことで職員は鍛えられ、業務能力を高め、専門性を推し進めてきた。そして今日、職員は組織の管理運営部門だけでなく、もっぱら教員の「聖域」とされてきた教育や研究へもその業務領域を拡げつつある。
それは社会の趨勢でもある。
今日の大学を取り巻く状況は、例えば、教育について言えば、今日の大衆化した大学が多様な学生を受け入れ、社会に通用する学力と人間力を備えた人材として送り出すためには、大学教育にも「学士課程」としての教育目的と教育体系、カリキュラムが求められ、教員と協働して組織的に取り組むカリキュラム・コーディネーターやアカデミック・アドミニストレーターが求められている。その役割を担うのは「新しい役割」を担い、それに「相応しい力量」を有する「教育職員」である。

本書に収録された8本の政策論文は、立命館大学 大学行政研究・研修センター「大学アドミニストレーター養成プログラム」において職員が取り組んだ政策立案演習によって生み出されたもののうち、立命館の教育・研究分野をテーマに取り上げたものにしぼってその解決策を提示したものである。これらのテーマが職員の「新しい役割」の、これらの政策論文の調査研究と論文(政策)にまとめる力量が「相応しい力量」の一つの具体例となっている。
政策立案演習の政策論文は、プログラム参加の受講生(職員)が、それぞれ「職場で解決を迫られている課題」「職場の積年の課題」「学園の中期計画上の課題」から各自の研究テーマを決め、学術論文の手法を借りて8カ月かけて書き上げたもので、実態分析を必須要件としていることが特徴である。教育系の論文は教育職員として学生の「学びと成長」を支援することへの強い思いが、また研究系の論文は研究力の強化を職員の立場でサポートするには何が必要かという問題意識が、論文の執筆のモチベーションとなっている。
さらに言えば、政策は実行を伴うことでその真価を発揮する。所収の論文のうちいくつかは、立命館においてすでに部門や教学機関で論議の上、より精緻化され、あるいは補強、修正されて実行に移されているが、それを具体化して推進するのも職員の力量である。
目次からお分かりの通り、立命館に固有のテーマではあるが、今日の大学が共通に抱える課題でもある。本書を通じて政策立案の手法と解決策、そして新しい職員のあり方について、いくばくかでも示唆するところがあれば幸いである。

2010年12月
立命館大学 大学行政研究・研修センター
近森 節子

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